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クールジャパンはなぜ失敗したか 設計できないものを設計しようとすると壊れる

   
クールジャパンはなぜ失敗したか 設計できないものを設計しようとすると壊れるのGPT生成本文インフォグラフィック

クールジャパンは、うまくいかなかった。
日本のアニメが世界に持っていた影響力を、国が旗を振って伸ばそうとした。
予算を組み、戦略を立て、「日本の魅力」を売り込みにいった。
それなのに、力はむしろ抜けていった。

奇妙なのは、素材そのものは本物だったことだ。
アニメの魅力は、政策が始まる前から十分に効いていた。
なのに、それを設計しようとした途端に、何かが壊れた。
壊したのは、たぶん設計しようとした行為そのものだ。

ソフトパワーは意図した瞬間に力を失う

アニメのソフトパワーとは何か

まず、壊れたものが何だったのかをはっきりさせておく。
ソフトパワーとは、強制や報酬ではなく、魅力や共感によって他国の行動や好みに影響を与える力だ(ジョセフ・ナイの定義)。
日本のアニメは、物語を通じて価値観や世界観を自然に運ぶ。
外交では届かない深さで、それが効く。

波及もはっきり出ている。
観光、食、音楽への入口として働き、各国の調査では、日本語を学ぶ最大の動機がアニメ・漫画だと示されている。
さらに面白いのは、言語化しにくい文化ほど、アニメがよく運ぶことだ。
義理や空気は、命題として説明しても伝わりにくい。
だが、具体的な物語や情景の中でなら、体験として伝わる。
言語化されない文化は、言語化されない手段で伝わる。

官製になった瞬間に失われるもの

ここに、逆説が一つ立ち上がる。
アニメのソフトパワーは、意図せず民間から生まれたからこそ、本物(authenticity)として効いていた。
国が旗を振って官製になった瞬間、その「自然な魅力」が抜ける。

これは、政策の出来不出来の話ではない。
もっと構造的な問題だ。
自然に生まれる仕組みを理解しないまま設計しようとして、設計という行為そのものが、その仕組みを壊した。
冒頭の「何かが壊れた」の正体は、これだ。

創発は設計の対象にならない

エコシステムの比喩

なぜ、設計が仕組みを壊すのか。
ここで、自然界のエコシステムが手がかりになる。
誰も全体を設計していないのに、それは機能する。
この現象を、創発(emergence)と呼ぶ。

日本の文化的な強さの多くも、この性質を持っている。
たとえば義理は、「感情とは切り離された社会的な債務」として働く。
だが、親がそれを言葉で教えることは、ほとんどない。
場の空気、親の振る舞い、周囲の反応から、子どもが帰納的に覚えていく。
恥と評判による強化、給食や掃除当番や班活動といった学校制度が、「個人は集団への義務を持つ」を体験として植えつける。

つまり、全体の設計図がどこにもないまま、機能している。
だからこそ、一部だけ取り出して最適化しようとすると、思わぬ形で壊れる。

無自覚な強さの危うさ

意図せず生まれた強さには、裏がある。
仕組みを理解しないまま持っている強さでもある、ということだ。
「なぜこれが効いていたのか」がわからなければ、壊してはいけないものを壊し、守らなくていいものを守ってしまう。

しかも、もっと厄介な逆説がある。
仕組みを理解した瞬間に、弱くなることがある。
理解する。再現できると思う。危機感が消える。環境の変化に鈍くなる。
『失敗の本質』が描いた日本軍が、まさにこれだった。
ミッドウェー以前の成功体験が、その後の判断を歪めていった。

「壊さないようにする」という選択

では、設計できないものを前に、何ができるのか。
エコシステムを「意図的に守る」ことはできない。
だが、「壊さないようにする」ことはできる。

設計できないものに取れる唯一の戦略は、設計しようとしないことだ。
全体を理解して制御しにいくのではなく、全体が機能している条件を観察し、その条件を傷つけないようにする。
それが組織や社会で具体的に何を指すのかは、簡単には答えが出ない。

それでも、一つだけ言えることがある。
クールジャパンがつまずいたのは、魅力が足りなかったからではなく、わからないものを急いで改善しようとしたからだ。
「なぜうまくいっているのかわからないもの」を前にしたとき、最初にやるべきは、改善ではなく観察だ。
そして観察は、成果を焦る手には、いちばん似合わない作業でもある。

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